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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)239号 決定 1961年11月28日

抗告人 田中喜一郎

相手方 坂橋醇一

主文

原決定を取り消す

福岡地方裁判所八女支部昭和三〇年(ケ)第四〇号不動産競売事件について、相手方は別紙目録記載の不動産中(一)(二)及び(三)の(1) に対し最高価金二二万一、〇〇〇円の競買申出をなしたので競落を許可する

別紙目録記載の不動産中(三)の(2) (3) に対する競落は許さない

理由

一、抗告人は、福岡地方裁判所八女支部昭和三〇年(ケ)第四〇号不動産競売事件について、同裁判所が昭和三六年一〇月二四日なした競落許可決定はこれを取り消すとの決定を求め、その理由として、別紙目録記載の不動産のうち(三)の(2) の付属建物は、雨漏りがして織物工場として使用不可能となつたので、抗告人は昭和三一年頃と思うがこれを解体し取り除いていたところ、昭和三六年二月頃八女検察庁から突然呼出を受けたので出頭したら、債権者である相手方板橋醇一から、右建物を解体したことにつき抗告人を被告訴人とする告訴状が提出されており、担当検察官の仲裁により、抗告人は相手方に金五万円を支払うことを承諾し、同年四月中この解体家屋を売却して相手方に金員を支払い、同物件だけは競売の目的物から取り消し除外するという約であつたにかかわらず、相手方はこの約旨に反し昭和三六年一〇月一〇日の競売期日には、右(三)の(2) の建物をも含めて競売が実施され、相手方において競売不動産全部を競落している。要するに、競売の対象となる家屋が全然存在しないのに、相手方は競売手続がそのまま進行するのを放置しているが、かような競売、競落許可決定は無効と思うので、抗告を申し立てると主張した。

二、記録によるとつぎの事実が認められる。

抗告人はその所有の別紙目録記載の(一)(二)の宅地及び(三)の(1) (2) (3) の建物((1) が主たる建物で、(2) (3) はその付属建物であり、(1) (2) (3) は、すべて一登記用紙に登記されている。)を抵当に供し、相手方から昭和三〇年六月一六日金二五万円を弁済期同年八月二五日、利息年一割八分、遅延利息年三割六分の約で借り受け、即日その旨抵当権設定登記を経たが、その後昭和三一年三月頃までの間に、(三)の建物のうち(2) の付属建物は抗告人において解体したので滅失し、(三)の(3) の付属建物は滅失し、(三)の(1) の主たる建物だけが現存するところ、抵当権者である相手方は、原裁判所に対し、昭和三〇年一〇月二〇日本件不動産全部につき抵当権の実行として競売を申立てたのであるが、相手方は、競売申立前はとも角、おそくとも競売手続の進行中には、右(三)の(2) (3) の付属建物が滅失して現存しないことを知悉するにいたり、原裁判所もまたこれを知悉して、競売期日の公告には、滅失前の(三)の(2) (3) の付属建物を形式上表示した上、たゞし(2) (3) の建物は現存しない旨を付記して公告し、(一)(二)の宅地及び(三)の(1) (2) (3) の建物全部を一括競売に付したので、昭和三六年一〇月一〇日の競売期日において、執行吏は、(三)の(2) (3) の建物は現存しない旨を告知して競売を実施したのに対し、債権者である相手方はすでに(三)の(2) (3) の付属建物が滅失して存在しないことを知悉しながら、(一)(二)の宅地及び(三)の(1) の建物につき、一括して最高価二二万一、〇〇〇円の競買を申し出たところ、原裁判所は(一)の宅地の最高価額四万八、二四〇円、(二)の宅地のそれは六万五八〇円、(三)の(1) (2) (3) のそれは一一万二、一八〇円で、最高価額二二万一、〇〇〇円の競買申出をなしたとして、(一)(二)及び(三)の(1) (2) (3) 全部について相手方に競落を許可したことが認められる。

右に見たように、建物登記簿の一用紙に登記された抵当権の目的たる建物のうち、ある一部の建物だけが滅失し、他の建物が残存するときは、同建物の所有者はその旨変更登記をなすべきであり、所有者が、変更登記をしないときは、抵当債権者は債権者代位権に基いて建物について変更の登記を代位申請し、建物の表示とその登記とを一致させて競売を申し立て、または競売手続の進行をはかるのが相当であるが、若しかような変更登記がなされないまま滅失建物に対しても競売が申し立てられ、その事実が裁判所に明らかである場合は、裁判所は民事訴訟法第六五三条の規定を類推し、滅失建物に対する競売開始決定を取り消し、現存する建物に対してだけ、競売手続を進行すベく、また若し滅失建物に対しても形式上競売手続が進められて、最高価競買の申出があつたとしても、右は民事訴訟法第六七二条第一号第六七四条第二項に「競売不動産が譲り渡すことのできないもの」に当るとともに、第六五八条第一号に違反し第六七二条第四号に該当し、競売の目的となり得ない不動産を競売期日の公告に掲記した違法があるというべきであるから、執行裁判所は職権をもつても、滅失建物に対する競落を許さない旨の決定をなすべく、執行裁判所が過つて競落を許し、これに対し適法な抗告があつたときは、抗告裁判所は、原競落許可決定を取り消し、競落不許の決定をなすべきである。

なお、前認定のように、原裁判所は本件不動産の一括競売を命じ、執行吏も一括競売を実施し、相手方も一括して最高価二二万一、〇〇〇円をもつて競買の申出をなしたのに対し、原裁判所が、(一)の宅地に対し最高価額金四万八、二四〇円、(二)の宅地に対し最高価額金六万五八〇円、(三)の建物全部に対し最高価額金一一万二、一八〇円として、相手方に対し競落を許可したのは相当でない。

前説示に照らして明らかなように、原決定は不当であつて要するに抗告は理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

目録

(一) 福岡県筑後市大字西牟田字四反田一、八八五番地の一

宅地 四三坪

(二) 同所一、八八五番地の八

宅地 五三坪

(三)(1)  同所一、八八五番地の一、家屋番号二〇二番

木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二〇坪、外二階四坪。

(2)  付属建物第一号

木造杉皮葺平家建工場一棟、建坪一四坪。

(3)  付属建物第二号

木造瓦葺平家建居宅一棟、建坪三坪。

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